1) ポンペイに「塔付き邸宅」の可能性——デジタル考古学が描く失われた上層階
ポンペイの一邸宅で、階段配置や壁体痕を手掛かりに上層部へ続く構造が想定され、3D復元により「展望塔」を備えた住居像が具体化してきた。十数メートル級の塔は、眺望と威信の演出を兼ね、都市景観に垂直性を与える存在だったかもしれない。風や光の取り込み、夜間の観測行為まで含めた生活技術の再評価にもつながる。今後は同時代の絵画資料・構造計算・視界解析を統合し、実在性と使われ方を検証していく段階に入った。
2) ツタンカーメン墓を守るために——3D安定解析が示す“弱点”と対策
王家の谷のKV62では、岩盤の亀裂分布や過去の洪水履歴、観光による微振動まで取り込んだ数値解析が進み、天井部や壁画層の安全率が精密に可視化された。湿度変動と塩類の結晶化が劣化の主因であることが再確認され、湿度管理の厳格化、部分的な補強、見学動線の再設計など実務的提言が導かれている。保存と公開の両立に向け、現場で機能する「デジタルツイン」と継続監視体制の整備が鍵となる。
3) マヤの人口はどれほど多かったのか——広域LiDARが塗り替える古典期像
森林を貫く広域LiDARの統合により、道路網や堤防、プラザ間隔といったインフラ配置が一望できるようになり、古典期の集住密度は従来より高かった可能性が示されている。低密度都市の概念は維持しつつも、農業生産や水管理の成熟度は上方修正が妥当かもしれない。推計には幅があるため、地域差・編年・季節性の精査が不可欠だ。考古学・環境史・計量モデルを横断した検証が、持続性の実像を浮かび上がらせる。
4) カラルの後を継ぐ都市?——ペルー北部「ペニコ」公開の意味
海岸とアンデス、さらにはアマゾンを結ぶ結節点に位置づけられる新遺跡「ペニコ」で、円形広場や階段状基壇、複数の公共建築が確認された。法螺貝トランペットなどの祭祀遺物は、共同儀礼と音の演出をともなう都市生活を想像させる。年代はおおむね紀元前二千年紀前半とみられ、カラル崩壊後の交易ネットワーク再編を議論する手掛かりが増えた。放射性炭素年代や植物遺存体の解析が、都市の成立過程をさらに解像するだろう。
5) 第18王朝の素顔に迫る——トトメス2世の墓報道とハトシェプスト神殿の新出
紅海沿岸域でトトメス2世に関わる埋葬遺構が特定されたとの報が注目を集める一方、デイル・エル=バハリの葬祭殿では彩色ブロック群が発見され、装飾計画の再構成が進む見込みだ。継承関係や共同統治の力学、女性ファラオの造営活動を読み解く資料が揃いつつあるが、碑文の精査、材質・顔料の同定、文様比較など確証の積み上げが不可欠である。過度なセンセーショナリズムを避け、一次データに基づく評価が望まれる。
6) 東アナトリアに響く湯の気配——ローマ浴場の床下暖房が語る地方都市
トルコ東部の遺跡で、燃焼室と煙道を備えたハイポコースト完備の浴場が確認された。良好な保存状況は、熱の循環や温度勾配の再現研究を可能にし、地方であっても衛生・余暇文化が浸透していたことを示す。周辺のモザイクや住居区画、軍道や交易路との関係性が解ければ、都市化の水準や人口規模がより具体化するだろう。保存整備と公開方法の工夫が、地域観光と学術の両立を後押しする。
7) 巨石は「集まりの場」だったのか——ヨルダン・ムライガートのドルメン群
中央ヨルダンの丘陵地に点在するドルメン群が再測量され、建設・使用・再利用の段階差が丁寧に読み解かれている。共同埋葬や饗宴、儀礼といった複合機能を担った可能性が高まり、巨石建造物を社会統合の装置として捉える視点が強化された。気候撹乱に揺れる時期、コミュニティがどのように協働し、記憶を可視化したのか——微地形の選好や土器散布、動線の解析がその答えに迫る。











